甲状腺機能亢進症・低下症

●甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンは海藻などの食物に含まれているヨードを材料として合成され、それぞれの細胞の新陳代謝を刺激したり促進したりする作用がある。
甲状腺ホルモンには、ヨードの元素が四つあるサイロキシン(thyroxine; T4)と、三つあるトリヨードサイロニン(triiodothyronine; T3)の2種類がある。甲状腺では主にT4が作られ、肝臓などで代謝されてT3となり、T3が主にホルモン作用を発揮する。
甲状腺ホルモンの分泌は、脳内の下垂体前葉から分泌される甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone; TSH)により調整されている。血中甲状腺ホルモン濃度が低下すると、間脳や下垂体でそれを感知し、より多くの甲状腺ホルモンを産生するようにTSHが分泌され、TSHは甲状腺内のTSH受容体に結合して甲状腺ホルモンが作られる。甲状腺ホルモン分泌の調節(negative feedback)は、このような負のフィードバック機構により行われている。
●血液検査
血中甲状腺ホルモンの測定は、血液中の蛋白と結合しているものも含めた総T4(total T4, T4)および総T3(total T3, T3)}と、蛋白から遊離しているものだけを測定する遊離T4(free T4, FT4、総T4の0.02~3%程度)および遊離T3(free T3, FT3、総T3の0.3~4%程度)がある。両方使用するが、現在では遊離ホルモンを測定する方が多い。
血中TSH濃度は、血中甲状腺ホルモンより敏感に反応するので、甲状腺機能をみるよい指標となる。サイログロブリン(thyroglobulin; Tg)は、甲状腺構成蛋白の主たるもので、甲状腺内にある濾胞中のコロイドの主成分であり、一部は分解されないで血中に漏出する。甲状腺組織が腫瘍により破壊されたり、過剰に刺激されれば血中濃度が上昇する。
その他一般検査では血中総コレステロール値は甲状腺機能により増減する。甲状腺疾患を疑わずに一般検査を行った場合など、この値の変動により甲状腺疾患を疑うことも出来る。
●自己抗体検査
以前より行われている検査は受け身凝集反応による抗体測定で、甲状腺可溶成分(Tgが主成分)に対する検査(サイロイドテスト、thyroglobulin passive agglutination test; TGPA)と甲状腺細胞質(主としてマイクロゾームで、主要なものは甲状腺ペルオキシダーゼ、thyroid peroxidase; TPO)に対する検査(マイクロゾームテスト、microsome passive agglutination test; MCPA)であり、現在でも使用されている。最近はより感度の良い正確な方法を用いて、抗サイログロブリン抗体(TgAb)や甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)としてそれぞれ測定されている。
甲状腺にあるTSH受容体に対する抗体が抗TSH受容体抗体(TSH receptor antibody; TRAb)である。TSH結合阻害性抗体(TSH binding inhibitory immunoglobulin; TBII)とも呼ばれる。甲状腺刺激抗体(thyroid stimulating antibody; TSAb)は、ブタ甲状腺細胞を用いて、患者IgGによるcAMPの産生増加を見ている。一般には行われないが、反対に刺激抑制をみる甲状腺刺激阻害抗体(thyroid stimulation blocking antibody; TSBAb)も測定される。
●画像診断
・超音波検査
・シンチグラム検査(123I、99mTcPO4-)
・大腿骨遠位端骨核(乳児期)、手根骨レ線(小児期)
●甲状腺機能低下症
・概念
クレチン症(先天性甲状腺機能低下症)は生まれつき甲状腺ホルモンが欠乏する疾患で、新生児期から乳児期早期の甲状腺ホルモン不足が脳神経系に不可逆的な障害を与えるため、新生児マススクリーニングの対象疾患となっている。クレチン症スクリーニングでは、全国的にTSHを測定しているが、一部の地域ではFT4の同時測定を行っている。そのため、現在ではほとんどの症例が新生児期に発見され、発症率は1/3000~5000程度である。
原因は、無甲状腺および甲状腺低形成、異所性、合成障害性(甲状腺腫性)の三種類に分類され、異所性甲状腺によるものが半数以上を占める。
橋本病(慢性甲状腺炎)は後天性の自己免疫性甲状腺機能低下症である。小児の場合甲状腺腫を示さない重症例があり萎縮性甲状腺炎とも言われている。甲状腺刺激抑制抗体(TSBAb)により発症する。50歳台女性に多い疾患であるが、小児期にも稀に発症する。
その他、ホルモン受容体異常による甲状腺機能低下症や脳腫瘍などによる中枢性甲状腺機能低下症がある。
新生児期には、黄疸の遷延、2日以上持続する便秘、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚のカサカサ、不活発、巨舌、かすれた泣き声、冷たい手足、浮腫、小泉門の開大、甲状腺腫などの症状がみられる。その後の時期では、成長発達遅延、知能障害、貧血、毛髪が粗剛、低体温、発汗の減少、嗄声、便秘、乾燥した皮膚、腱反射消失などがみられる。甲状腺腫性クレチン症や萎縮性甲状腺炎でない橋本病の場合、甲状腺の腫脹も認められる。
・検査
血清TSHが30μU/ml以上あるいはFT4が1.5ng/dl以下の場合治療を開始する。当日結果の出ない施設では、濾紙血TSH値がかなり高い、症状がある、超音波検査で異常がある、大腿骨遠位端骨核が出現していない、の一つでもあれば治療を開始して結果を待つ。診断の確定より治療を優先する。
後天性の場合、種々の甲状腺自己抗体の検査も行う。抗甲状腺ペルオキシターゼ(TPOAb)抗体または抗サイログロブリン抗体(TgAb)陽性で機能低下が認められれば診断される。慢性甲状腺炎の診断に必要な抗 Tg 抗体,抗TPO 抗体については,以前,両者を測定した場合に 1 項目しか算定されない事例もあったが,一方が陰性を示すことがあるので,診断上は両者の測定が必要である。橋本病の場合は甲状腺機能が経過により変化することがあるので経過観察が重要となる。手根骨レ線で骨年齢の遅延を認める時は、経過が長かったことが示唆される。総コレステロールの高値により当疾患を疑うこともある。
・治療
甲状腺ホルモンであるレボチロキシンナトリウム(l-T4)を使用する。
クレチン症の場合、チラーヂンSを10μg/kg/日で開始する。散剤を使用するが、ないときは錠剤をつぶして処方する。半減期が長いので1日1回投与でよい。以後、血清TSH値が正常範囲内で血清FT4値が正常上限あたりになるように投与量を調節する。年齢が進むと体重は増加し体重あたりの投与量は漸減するので投与量をしばらく変えずにすむことも多い。確定診断は一度治療を中断して行う必要があるので、中断による脳神経系への影響が少なくなる3歳以降に行う。クレチン症の場合は、1日でも早い治療が必要であり新生児は最初から維持量で投与してもほぼ問題はない。
橋本病の場合は、少量からl-T4を開始し、徐々に増量していく。チラージンSの初回投与量は通常50μg、高齢者や冠動脈疾患の合併が予想される患者では25μgとする。検査間隔は2週~1ヶ月程度で3~4ヶ月で維持量になればよい。血中FT3、FT4は結合蛋白が飽和してから上昇するので、投与開始後、あるいは増量後短期間で評価すると過剰投与になりがちなので注意する。TSHを正常に保つように調整する。
明らかな甲状腺機能低下症状を呈する初期の段階では,1ヵ月に 1~2 回受診して,その都度,
FT4,(FT3),TSH その他の検査を行う。数ヵ月後,甲状腺ホルモンが正常化した段階では,受診
は 2~3ヵ月に 1 回とし,上記と同様の検査を行う。さらに,T4 の投与量が一定になったら,半
年~1 年に 1 回上記の検査を行う。
●甲状腺機能亢進症
・病因
バセドウ病(後天性びまん性甲状腺機能亢進症)がほとんどを占める。自己免疫の代表的な疾患であり、20歳台女性に多いが、幼児期より発症する症例もある。TSH受容体に対する刺激抗体(TRAb、TBII、TSAb)により甲状腺ホルモンが過剰に産生されることが原因である。
他には、ホルモン受容体異常による甲状腺機能亢進症、甲状腺内の結節による結節性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、急性甲状腺炎等がある。
・症状
過剰な甲状腺ホルモンによる症状としては、易疲労感、落ち着きがない、暑がり、手足のふるえ、多汗、動悸、頻脈、微熱、食欲亢進、体重減少、排便回数増加、不眠、収縮期高血圧など様々な症状が現れる。小児の場合学校の成績が下がったり得意な運動ができなくなったりすることがある。
甲状腺腫も起こるが、肥満の場合など見過ごすこともある。甲状腺自己抗体は眼窩内にも影響を及ぼすため、眼球突出や複視など眼科的症状も多い。
・検査
バセドウ病の場合、血清TSH, FT4, FT3値の測定、TRAb(TBII)やTSAbなどの自己抗体の測定、一般検査、超音波甲状腺検査、甲状腺ヨード摂取率やシンチグラフィ検査などを行う。症状があり、血清TSH低値(0.1μU/ml以下)、FT4・FT3の高値、TRAb陽性かTSAb陽性があればほぼ診断される。バセドウ病診断に行われる TSHレセプター抗体(TRAb,TSAb)は,同じ月に両者を行っても保
険診療上は1項目しか認められない。ただし,稀には,バセドウ病でどちらか一方の抗体が陰性の場合もあり,この際には両者の測定が必要と考えられる。びまん性病変の診断には画像診断を行う。超音波カラードップラー法では甲状腺のびまん性腫大に加え、腺内の血流増加が観察される。総コレステロール低値やアルカリフォスターゼ高値を示すことが多い。
・治療
バセドウ病の治療には、抗甲状腺剤による内服治療、甲状腺亜全摘による外科治療、放射線ヨード内用による放射線治療があるが、小児の場合まず抗甲状腺剤内服を選択する。
抗甲状腺剤にはチアマゾールとプロピルチオウラシルがあるが、チアマゾールが第一選択薬となる。初期治療量は0.5~1.0mg/kg/日(分1~3)で、プロピルチオウラシルの場合は5~10mg/kg/日(分3)である。治療開始直後は2~4週毎に血中甲状腺ホルモン値をチェックし、甲状腺機能が安定してきたら維持量にまで減量する。通常1~2ヶ月で安定し、維持量はチアマゾールで5~10mg/日程度となる。以後3ヶ月に一度程度の検査で機能正常を確認する。なお、経過中の甲状腺機能安定化を目的としてl-T4を併用することもある。
最低でも1~2年治療を継続し、維持量で甲状腺機能が正常かつTRAb(TBII)やTSAbが陰性化した状態で6ヶ月~2年経過した場合に治療中止を考慮する。再発は治療中止3~6ヶ月後に多いが、その後も再発する可能性があることから寛解中も定期的な管理が必要である。
軽微な皮疹、軽度の肝機能障害などminorな副作用出現時は他の薬剤を併用しながら治療を継続するが、軽快しない場合は薬剤を変更する。また、無顆粒球症や抗好中球細胞質抗体(ANCA)による腎炎や血管炎などの重篤な副作用出現時には直ちに治療を中止する。治療変更の手段としてはまずはヨード剤を使用するが、ヨード剤でescapeした場合には外科的治療や放射線治療を考慮する。
成人の場合、軽症(遊離T4:5ng/dl未満)ではメルカゾール錠(5mg)3錠分1から開始する。中等症以上(遊離T4:5ng/dl以上)ではメルカゾール錠(5mg)6錠分2で解する。妊娠予定や妊娠初期、MMIで副作用が出たときは、チウラジール錠(50mg)6錠分3、甲状腺中毒症で動悸(頻脈)の強いときは、インデラル錠(10mg)3錠分3とする。
甲状腺ホルモン濃度の正常化を確かめながら,20mg, 15mg, 10mg, 5mg と徐々に減量する。5mg までに減量するには,個人差が大きいが平均1~2年が目安になる。FT4,FT3,TSH は初期には 2 週に1回ぐらい検査する。3ヵ月後ぐらいからは,1ヵ月1回とし,その後は 2ヵ月 1 回程度でよい。TRAb,TSAb は毎回は測定する必要はないが 2~3ヵ月に 1 回は測定する。生化学検査(TC, TG, ALP, Ca, Pなど)は適宜行う。また,メルカゾール,PTU の副作用として最も重要な無顆粒球症 (agranulocytosis)の発症を診断するために,毎回必ず,血算(特に白血球数,白血球分類)を行う。バセドー治療開始初期においてはかなりTSHが抑制されているため、TSH値をメルカゾール減量の参考にはしない。TSHはFT4,FT3が正常化してから2~3ヵ月遅れて正常化することが多い。
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